『SOUNDTRACK〜Beginning & the End〜』

吉井和哉のソロデビュー15周年に合わせてリリースされた、2015年のソロライブ音源と新曲からなるベストアルバム的1枚。
アルバムジャケットの吉井和哉の表情は、何と形容したらいいのだろうかと迷った。
遠くを見ているようで目の前の誰かを凝視しているような、何か重大な告白をしかけているようで沈黙を貫いているような――そのアンヴィバレンツな表情こそが15年を経て吉井和哉が辿り着いた境地であり、メッセージなのだということ。寂しそうなその表情は、寂しさを隠さないという意味で強さもまた湛えていると思った。
新曲の“Island”は、アルバムタイトルの『SOUDTRACK』に呼応するかのように、まるでこの曲自体が映画のエンドロールであるようだ。一つの物語の終わりに際して感じる安堵と寂寥と感傷に満ちたこの曲は、これまでの吉井和哉のどの曲にも似ていない。けれど同時に、これまでの吉井和哉の歩みがあってこその、吉井和哉にしか歌えない曲でもあると思った。この曲は吉井和哉のキャリアの一つの区切りを示す重要な曲になるという予感がした。
この曲はアルバムの1曲目を飾る、<行かなきゃ 僕はいつか行かなきゃ/やるべきことの続きに>と歌う“MY FOOLOSH HEART”のアンサーソングのようでもある。けれど、ギターとともに穏やかに歌い出される“Island”が描くのは、今もなおたどり着く場所を探し続けているという告白であり、いつかたどり着けますようにという祈りだった。
血まみれの女神達よ聴いてください/この嘘みたいな現実を生き抜くための歌を>や<カラダのど真ん中に十字架突き刺して/夜空に天使呼びたいんです/あの宗教画みたいに>という、自分を超えた見えざる力に臆面もなく願いを訴える歌詞は、「Island(島)」という言葉とともに、吉井和哉のこれまでの詩作にはないもので、とても強い印象を残す。
長い時間がかかっても一歩一歩歩み続ければいつかたどり着く地続きの場所ではなく、海と空を超えなくては辿り着けない「島」に想いをはせるということ。この境地に、華やかなロックスターやベテランアーティストとしてではない、50代を迎えた一人の人間としての吉井和哉の葛藤と覚悟を感じた。それはちょうどアルバムジャケットのあの表情にも重なるものでもある。
だから、この曲は、心のとても深い場所で歌われていて、聞き手の心のとても深い場所に届く歌になっている。

願いは風の中 祈りは空 海へ
涙は砂に溶け 光が乾かして
心が疲れたら 歌でも歌いながら
あの日蒔いた種が育った
名前のない島へ行こう
(Island)

またひとつ、心を抉り心を支える曲に出会えたことに、吉井和哉に感謝したいと思う。