THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR(2019/12/28 ナゴヤドーム)

ザ・イエローモンキーが、現在のバンドメンバーで初めてライブをした日が、1989年12月28日。それから30年の時が流れ、バンドの30歳の誕生日でもありバンドのキャリア史上最大規模となるドームツアーの初日となったライブは、序盤、中盤、終盤と進むなかで、ライブの印象がどんどん変わっていった。ライブを通してこんなに印象が変わるライブは珍しいと思った。

その珍しさは、このバンドにとってはもはやドームでライブをすることがゴールなのではなく、ドームでどんなライブをするかという次の階段にこのバンドが足をかけていることを示唆しているようだった。「30年」という時間の重みに足を取られることなく、むしろ軽やかにさりげなく「挑戦」を試みているような、そんなライブだった。

ライブは‟SECOND CRY”で幕を開けた。ふと、この会場に少なくないであろう最近ファンになって今日が初めてのライブだという人を思い浮かべ、心の中で「驚かせて、ごめんなさいね。こういうバンドなの。でも、この曲にちょっとでも惹かれるものを感じたら、このバンドはあなたを絶対裏切らないと思う。心配したことは何度もあったけど、裏切られたことは一度もなかったから」と呟いた。その言葉がまさに私とイエローモンキーの歴史なのだと思った。
と同時に、その曲をメインステージにいるメンバー3人を背にして、アリーナ中央のセンターステージで一人歌う吉井和哉の姿は、なんだか少し寂げだった。堂々たる歌唱の一方でそんなことを感じることが不思議だった。けれど、その不思議な違和感は、大型スクリーンに映し出される吉井和哉の表情からも感じられた。ライブ序盤の吉井和哉の表情はどこか硬く、疲れている感じさえした。

その印象がガラっと変わったのは、‟球根”を歌い上げた後、センターステージに移動し、初期の‟This Is For You” ‟Foxy Blue Love” ”SLEEPLESS IMAGINATION"を続けて演奏したあたりからだった。吉井和哉の表情も動きも、みるみる明るく弾けてくるのを感じた。
特に印象的だったのは、結成当初はバンドへの加入を渋っていたエマがツアーで訪れた名古屋の民宿でバンドメンバーとなる返事をしてくれた、という思い出を語った後の"This Is For You”。エマが初めてイエローモンキーで作曲したこの曲の終わり、エマが吉井和哉のそばに歩み寄ってアイコンタクトを取ろうとしたけれど、吉井和哉はその気配に気づきつつ少し頬を緩ませながらも結局エマと目を合わせなかった。その姿が、まさにまさに「THE 吉井和哉」という感じでとても印象的だった。何万人もの聴衆の愛情を一身に浴びるロックスターであると同時に、自分に差し向けられた素朴な愛情に照れる不器用なその姿に、「どうかずっとそのままでいてほしい」とさえ思った。

そしてセンターステージで、初期のグラムロック色の濃い曲から、最新アルバムの‟I don't know”、代表曲の‟BURN” ‟LOVE LOVE SHOW” ‟JAM”が立て続けに演奏されたセットリストは、ドームのスケール観にバンドを合わせるのではなく、むしろバンドのライブの在り方にドームをアジャストさせようとする挑戦を感じた。そして、その挑戦は、ドームの大観衆を、ライブハウスのような小さなセンターステージの演奏だけで魅了できるというバンドの力量と、新たなドームライブの可能性を示していた。

センターステージからメインステージに戻るインターミッションでは、ステージ左右のスクリーンに結成したこの30年間のライブ歴が映し出されるとともに、バンド結成間もない頃のデモテープの未発表曲が流れた。そのテープのインデックスには、手押しスタンプによる曲名とメンバー名の他に、「STRANGE BOYZ FROM JAPAN」とあった。直訳すると「日本からやってきた奇妙な少年達」――欧米へのコンプレックスと憧れの両方を抱えたジャパニーズ・ロックンロールという、バンドの自意識と美意識が結成当初から変わらぬものであることが垣間見えるようだった。そして、それから30年を経て、その奇妙な少年達は、押しも押されぬロックスターになった。

ライブ本編の終盤、「お父さーん」と叫んだ後で歌い出された‟Father”。この曲を初めてライブで聞いた。さまざまな景色を映す飛行機か列車の窓を背景に<気絶するほど遠くまできた><今僕は奇跡のかけらの指輪を探してる>と歌う吉井和哉の姿だけでもう十分だと思った。亡き父を想って歌う吉井和哉は、他のどの曲を歌う時にも見せない、満たされた表情を浮かべていた。

そして、この曲に続いてライブ本編の最後に歌われた‟シルクスカーフに帽子のマダム”が、この日のライブの白眉だった。ザ・イエローモンキーを貫いてきた自意識と美意識をまさに1曲で証明するような、そんな曲であり演奏だった。バンド名の由来を身近にあった戦争の記憶とともに語り、自分の中にいる「浮かばれない女性」のために歌っていると語った後に歌われたこの曲は、‟SECOND CRY”から始まった今日のライブが、いくつものハイライトを経ての1曲に収斂していくかのような、説得力を持っていた。ドームのライブ本編ラストをこの曲で飾るということそれ自体が、このバンドの30年の歩みとは「イエローモンキーがイエローモンキーを裏切らなかった」ということだったと証明しているように思えた。

いいライブだった――と思う。けれど、このライブを「いいライブだった」で締め括ってしまうと、この後の大阪ドーム、東京ドームのライブで何も言えなくなってしまうような、そんな予感もある。だからこう言おうと思う。私の大好きなイエローモンキーのライブだった。 

 

 付記:ライブのどこで演奏されるか楽しみだった‟DAN DAN”はライブ後半の幕開けに。本物のチンドン屋さんが花道とステージを練り歩いてからの演奏は、イエローモンキーにとても似合っていた。チンドン屋さんの派手でにぎやかな外見と裏腹のどこか物悲しくて切ない音楽という組み合わせは、「イエローモンキー的」だと感じた。チンドン屋さんのちょんまげに着物の男性の姿に、ふと、大衆演劇の役者だった吉井和哉の父親のことを思った。

THE YELLOW MONKEY セットリスト(2019/12/28)
SECOND CRY
ROCK STAR
SPARK
Ballon Ballon
A HENな飴玉
追憶のマーメイド
球根
This Is For You
LOVERS ON BACK STREET
Foxy Blue Love
SLEEPLESS IMAGINATION
I don't know
BURN
LOVE LOVE SHOW
JAM
DAN DAN
パンチドランカー
天道虫
I
SUCK OF LIFE
Horizon
Father
シルクスカーフに帽子のマダム

 ーencoreー
おそそブギウギ
アバンギャルドで行こうよ
バラ色の日々
ALRIGHT
悲しきASIAN BOY