10th Anniversary YOSHII LOVINSON SUPER LIVE(2013/12/07 さいたまスーパーアリーナ)

このライブが発表された時は、なぜこのタイミングで、なぜこんなにキャパシティの大きい会場で、なぜ「YOSHII LOVINSON」と銘打ったライブなのだろう、と思った。ライブが始まる直前まで、そんな思いが心の隅っこにあった。
けれど、1st『AT THE BLACK HOLE』最後の同名曲の寒々しくどこかとぼけたシンセサイザー音から原始的な炎に照らされて大幅にアレンジを変えた“20 GO”が始まり、力強く“PHOENIX”がそれに続くと、そんな思いは消えてしまった。ロックシーンの動向やファンのニーズといった外側からの動機づけ以上に、アーティストとしての内なる必然性に突き動かされている姿は潔く清々しいと思った。

セットリストは、「いつもより少し、YOSHII LOVINSON色が強い程度かな」という予想を裏切って、26曲中18曲がYOSHII LOVINSON名義の曲だった。特に2nd『WHITE ROOM』の曲は、全11曲中10曲が演奏された。このアルバムの曲に「報いたかった」という思いが伝わってくるセットリストだった。
そんな思いに裏打ちされたかのように、前半に続けて演奏された“JUST A LITTLE DAY”“ WANTED AND SHEEP”“RAINBOW”が、個人的に今回のライブのハイライトのひとつだった。七色に割れた照明のなかで歌われた“RAINBOW”は本当に美しかった。
20歳前で死んだ親友(JUST A LITTLE DAY)、砂漠で血まみれで死んだおたずね者(WANTED AND SHEEP)、銀世界で死んだスキーヤー(RAINBOW)、そして、レコードの中のジョンレノン(WHAT TIME)――『WHITE ROOM』には死者が何度も登場する。リリックのための比喩ではなく生々しい実感として、当時の吉井和哉はアーティストとして「生きるか死ぬか」あるいは「一度死んで生まれ変わる」という境地だったのだろうと思った。

YOSHI LOVINSONのレコーディングに参加したJulian Coryell(G)、Josh Freese(Dr)、Paul Bushnell(B)を従えた演奏は力強くタイトでありながらも、YOSHII LOVINSONの繊細で憂いのある世界にぴったりと寄り添っていた。会場にいた誰もが「あぁ、この曲はこんなふうに演奏したかったんだな」という感慨を抱いたと思う。特に、アッパーでもダウナーでもない妙なテンションの曲調に当時はどこか散漫な印象を抱いていた“SPIRIT’S COMING(GET OUT I LOVE ROLLING STONES)”は、曲の輪郭がくっきりと浮かび上がってきて、この曲に新たに出会い直した感動があった。
と同時に、セットリストの後半に織り交ぜられた最近の“点描のしくみ”と“煩悩コントロール”がYOSHII LOVINSON時代の曲と並んでも違和感なく感じられたのは、バンドの演奏が「洗練」されていたからだけじゃなく、YOSHII LOVINSONの曲が本来的に「先鋭」的だったからなんじゃないかと思った。そして、ステージを横断するスクリーンにバンドメンバーと並んで映し出された吉井和哉は本当にかっこよかった。スクリーンの映像と照明の演出が大きな会場にとても映えていた。

吉井和哉は、ネクタイを締めてジャケットを着ていた。アンコール最後の“トブヨウニ”を歌う前になってようやくネクタイをほどいてシャツのボタンを2つほどはずした。思えば「GOOD BY YOSHII KZUYA」のツアーでもネクタイを締めてジャケットを着ていた。今回のライブもネクタイ姿がとても似合っていた。もしかすると、吉井和哉はもうあまりシャツをはだけて着なくなるのかもしれない。けれど、それはとても自然なことのような気もする。
ふと、ライブ中、「吉井和哉は〈新しい服〉に着がえようとしているのかもしれない」と思った。嫌いになったわけでもサイズが合わなくなったわけでもないのに、ふと今まで着ていた服が似合わないと感じるということ――「変化」というのはそんなふうに、決意や決別を必要とせずに、自然に起こるものなのかもしれない。そして、そんな変化の方が実は本質的で後戻りしないものなのかもしれない。
そう思うと、かつてのYOSHII LOVINSONは痛みとともに〈古い服〉を脱ぎ捨てて必死に〈新しい服〉を探していたのかもしれない。そして、「だからこそ」なのか「にもかかわらず」なのか、むしろその両方の意味で、今このタイミングで吉井和哉は「かつての〈新しい服〉」=YOSHII LOVINSONにしっかり向き合おうとしたのかもしれない。

最後のMCで冗談まじりに来年からは「イエローモンキーのロビン」と「YOSHII LOVINSON」と「吉井和哉」が合わさって「スーパー吉井和哉」になると言っていた。「スーパー吉井和哉」がどんなものかは想像がつかない。けれど、これまでと同じく吉井和哉は変わり続けていと思う。実際、『APPLES』以降のこの2年で吉井和哉は大きく変わったと思う。それは「〈変わり方〉が変わった」というような性質の変化だと思う。意識的なコンセプチュアルな変化ではなく、無意識に流れに身を任せるような変化。「変わろうとして変わる」のではなく、「気がついたら変わっていた」というような変化。それはとても健やかで力強い感じがする。ちょうど、ライブの中盤で歌ったこのフレーズのように――。

オレは生まれつきの何かな?
誰かのコピーじゃない ない ないんだ
忘れていたわけじゃないが
色々とやってみてわかったんだ


ぶきっちょでまっすぐはいいんじゃない?
(NATURALLY)

いいライブだった。とてもいいライブだった。YOSHII LOVINSONは優しく逞しく、そして健やかに、ステージの上で輝いていた。

YOSHII LOVINSONセットリスト(2013/12/07)
20 GO
PHOENIX
黄金バッド
JUST A LITTLE DAY
WANTED AND SHEEP
RAINBOW
CALL ME
SADE JOPLIN
FALLIN’ FALLIN’
SPIRIT’S COMING(GET OUT I LOVE ROLLING STONES)
NATURALLY
欲望
煩悩コントロール
恋の花
SWEET CANDY RAIN
TALI
FOR ME NOW
MUDDY WATER
点描のしくみ
ビルマニア
WHAT TIME


(encore)
BLOWN UP CHILDREN
ノーパン
ルビー
ALL BY LOVE
トブヨウニ

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おまけ
昔のブログで7年前に書いたYOSHII LOVNSONのアルバムレビューです。今読み返すと、ところどころちょっと「筆が滑っている」感じもします(苦笑)。

YOSHII LOVINSONアルバムレビュー