『STARLIGHT』

かつてボブ・ディランが<Ah but I was so much older then, I am younger than that now(あの頃の僕は今よりずっと年老いていて、今の僕はその頃よりも若い)>と歌ったように、吉井和哉の新作『STARLIGHT』は、ソロデビューから10年以上を経て、ソロ7作目にして、そのキャリアの中で最も若々しく、みずみずしく、そして明るい。
曲が、歌詞が、アレンジがというよりも、アルバム全体に通底する心のあり方が「明るい」と思った。その明るさは、「ブライト(blight)」というよりも「クリア(clear)」――存在それ自体が光を放つというよりも、あらゆる光が降り注ぎ交わることで輝くような、そんな、明るさ。その明るい陽射しの中で、言葉とメロディは繊細に紡がれるよりも、幸福に飛び跳ねていて、そのせいか若干歌詞が軽いと感じてしまう。けれど、その軽さにも必然と説得力を持たせるだけの声がある。叫ばずとも絞り出さずとも、その声には心の深い場所から出て、誰かの心の深い場所に届くような、率直さと健やかさと温かさがある。吉井和哉は今一番いい声で歌っていると思う。

個人的には、“ROUTE69”が出色だと思った。一度聞いただけで、しかも曲を全て聞き終わる前に大好きになった。

嫌いなとこが好きだった 最後はそこに行き着いた
泣いてもいいよ 笑ってもいいよ
あとは一人で
どこまでもただどこまでも続くこの道ならば
そのほうがいいと そのほうがいいと

嫌いなとこが好きだった 最後はそこに行き着いた>というこのフレーズに、大袈裟ではなく、本当に驚いた。「吉井和哉の愛の歌」のひとつの到達点だと思った。愛の本質が逆説なのだと突き止めててもなお、それを求めずにはいられないということ。愛を歌うアーティストは星の数ほどいるけれど、歌うことによって愛について考え続けているアーティストはほとんどいない。吉井和哉にとって、愛とは「答え」ではなく「問い」なのだと思った。そして、それはおそらく一生かかっても解けることはないという予感が、夕陽が作る長い影のようにその歌に唯一無二の奥行を与えている。

と、ここまで書いてきて、ここまでに書いたことを忘れてしまうほどに、ライブでもう一度このアルバムに出会い直すことになりそうな、ライブでこのアルバムに対する印象がさらに変わりそうな予感がしている。だから、今週から始まるツアーがとても楽しみだ。

STARLIGHT (初回限定盤)CD+DVD

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