吉井和哉 15th Anniversary Tour 2018‐Let's Go Oh! Honey−(東京国際フォーラム 2018/06/23)

いいライブだった。「ソロアーティスト」としての、「独りの表現者」としての吉井和哉の音楽の魅力に出会い直し、見つめ直すような、そんな感慨深い瞬間の連続だった。

東京国際フォーラム吉井和哉のライブ見るのは3度目だった。それはいつも梅雨の紫陽花の季節だった。2011年7月1日のライブで‟球根”を歌う吉井和哉を見て「あぁ、この人には涙がいっぱい詰まっているんだなぁ」と吉井和哉に対して初めてそんなふうに思えたこと。2015年7月15日のライブで会場を間違えて開演20分前にNHKホールに到着して、渋谷から有楽町へ向かうタクシーの窓から見た柔らかにオレンジに染まった東京の街がきれいだったこと――そんなことを思い出しながら、会場を埋め尽くしたそれぞれのファンにもまた同じように「吉井和哉との思い出」があるということを想った。
セットリストは、先日リリースされたこの15年間のソロ活動のベストアルバム的なセットリストというよりも、「ソロアーティストとしての吉井和哉のベストとは何か」と問い直した上で、ファンともその問いを共有しようとしているかのようだった。それは「意外」でありながら「予想以上」「期待以上」のセットリストだった。アレンジを大きく変えたことでメロディの良さやオリジナリティがより際立った‟CALIFORNIAN RIDER”や‟母いすゞ”が印象に残りつつ、個人的に白眉だったのは‟血潮”と‟HEARTS”だった。
ライブ1曲目の‟シュレッダー”と本編ラストを飾った‟BLIEVE”を始め、本人のMC通り、吉井和哉のソロの楽曲には「別れの歌」が多い。‟血潮”と‟HEARTS”もまた「別れの歌」であるけれど、これらは同時に「旅立ちの歌」でもある。失ったものの悲しみの確かさと大きさに比べて、旅立ちの希望の不確かさに心が折れそうになるけれど、それでも歌の中の彼らは<さよなら いつも 怯えたいた私>(血潮)、<次の場所へ さよならごめん 迷わず飛べ>(HEARTS)となけなしの勇気と決意を滲ませる。その姿が「強さ」よりも「美しさ」を、「明るさ」よりも「切なさ」を感じさせるのは、その歌声のせいなのだと思う。

ライブ前半のMCで、吉井和哉は自分の歩みを振り返って「失敗しないと学べない人間で、失敗しても学ばない人間で…たくさんの人にご迷惑をおかけしました」と頭を下げて謝った。ライブでアーティストに謝られるのは初めてだった。でもそれが「吉井和哉らしい」とも思った。その言葉は本心なのだろうと思う。けれどその言葉は、ファンに許しを乞うためのものというよりも、それを口にすること自体が今の吉井和哉にとって必然なのだろうと思った。ライブの終盤、またソロアルバムを作ろうとしていること、一から始めるような気持であるということを言っていたこととも重なって、ふと「棚卸し」「埋め合わせ」という言葉が思い浮かんだ。

ライブ中、吉井和哉はザ・イエローモンキーのことを「あの大型バンド」と言っていた。バンド名を素直に言わないところに、吉井和哉のイエローモンキーに対する「意識」があるのだと思った。そして、セットリストが進むにつれ、今後吉井和哉のソロライブではイエローモンキーの曲を演奏することはないのかもしれないということに気付いた。昨年12月の圧巻だったザ・イエローモンキーの東京ドーム公演を思い出しながら、イエローモンキーのライブがより「SHOW(ショー)」であり「エンターテイメント」だとしたら、吉井和哉のソロライブはより「LIVE(ライブ)」であり文字通り「人生そのもの」であるというような対照と、それがこれからの吉井和哉の活動の両輪になっていくというイメージが浮かんだ。それらは互いに映し出し合いながら、それぞれの存在感を際立たせていくのかもしれないと思った。

アンコールのラスト、ライブの最後を飾ったのは、新曲の‟Island”。曲に込めた思いはおろか、それが新曲であることもさえも告げずに歌い始めた姿に、この曲に対する吉井和哉の自信と思い入れを感じた。ワンコーラス目が終わったところで自然と拍手が湧き起こったのは、その歌がその自信と思い入れ以上のものを客席に届けていたからだと思う。ステージの後ろのスクリーンには、曲想に沿った美しい映像とともに歌詞の断片が映し出されて、その文字がそのまま心に刺さってくるようだった。そして、<迷子になった大人>としての葛藤や絶望を歌いながらも、それらに呑み込まれることなく確かな言葉とメロディを掴む吉井和哉表現者としての握力を改めて感じた。CDでは儚げな祈りのように聞こえたその歌は、ライブでは、失ったことや間違ったことの後悔と失うことや間違うことの予感を背負いつつも前に進むことをあきらめないという力強い宣言のようにも聞こえた。

また、ひとつ「吉井和哉との思い出」が増えたと思えたライブだった。

吉井和哉セットリスト(2018/06/24)
シュレッダー
Do The Flipping
WEEKENDER
CALIFORNIAN RIDER
ヘヴンリー
CALL ME
いすゞ
HATE
クランベリー
点描のしくみ
LOVE & PEACE
血潮
ONE DAY
(Everybody is)Like a Starlight
BELIEVE


―encore―
BEAUTIFUL
ルビー
VS
ビルマニア
WINNER
HEARTS
Island