吉井和哉 THE SILENT VISION TOUR 2021-22(2021/12/28 日本武道館)

12月28日恒例の吉井和哉日本武道館公演の中でも、特に印象に残るライブになった。
セットリストも演出もそして吉井和哉の佇まいも全て含めて、吉井和哉の現在地を正直に明かしたライブだったと思う。12月28日という特別な日の武道館公演だからといって無理に笑うことも盛り上げることもないその姿勢に素っ気なさも感じたけれど、観客として「信頼されている」とも感じもした。

キャンセルカルチャーなどの昨今の世の中への違和感を歌った「〇か×」で始まったセットリストは、全てソロの楽曲で、古参ファンでも曲名を思い出すのに時間がかかる曲がいくつもあるようなマニアックなセットリストだった。“フロリダ” “欲望" "黄金バッド"と続いた時には思わず笑ってしまった。終演後私の後ろにいた二人組の女性は「途中からテイスト変わるかと思ったけど変わらなかったね…」と話していた。「甘くないソリッドなロックンロール」で貫いた抑制のきいたなセットリストだった。

個人的には、常にライブの5~6曲目で辺りで歌われる“SIDE BY SIDE”が嬉しかった。吉井和哉のソロライブでは、この曲での歌唱の印象がライブ全体の印象に重なることが多い。その意味で、今回のライブは「充実」していたと思う(高音が裏返る瞬間などが多少あったけれど)。私が聞きたいと思っていた曲(Sweet Candy Rain、NATURALLY、雨雲、Ruby、バスツアー、HEARTS、ROUTE69)は聞けなかったけれど、今回のセットリストを選んだ吉井和哉にアーティストとしての気概、気骨を感じた。

ステージ後ろのスクリーンにはそれぞれの曲に似合ったスタイリッシュな映像が映し出されていて、スクリーンに吉井和哉の顔が映し出されたのはアンコールの“FINAL COUNTDOWN”の時だけだった。スクリーンの映し出された吉井和哉の瞳は「涙目」のように見えた。

アンコール最後の“みらいのうた”を歌う前、吉井和哉は「個人的なことなんですけど…」と前置きして、父親が亡くなって今年で50年になること、「人は死んでから50年経つとゼロになる」ことを語った。さらに、アーティストとしての自分に残されている時間は多くはないと感じていること、コロナ禍でいろいろなことが変化していることも。人生における節目と変化、そして今もなお続く「向かい風」の状況に対して文字通り「祈る」ように歌われた“みらいのうた”は、この曲のためだけに今日のライブがあったとしても不思議ではないくらいに、美しく深い印象を残すものだった。

吉井和哉のようにその人生と生み出す音楽が分かち難く結びついているアーティストのファンを長く続けていたら、そしてその音楽に自分自身の人生を重ねるような聞き方をしていたら、いつの頃からか吉井和哉を「戦友」のように感じるようになった。そのせいか、12月28日の日本武道館でのライブは私にとって「戦況報告会」のようでもある。今回のライブから、「戦況」の見通しは不透明ではあるけれど、決して諦めることはないというメッセージを受け取った気がした。

吉井和哉セットリスト(2021/12/28)
〇か×
無音dB
Biri
フロリダ
欲望
黄金バッド
SIDE BY SIDE
RAINBOW
クランベリー
シュレッダー
ロックンロールのメソッド
MUSIC
点描のしくみ
Hattrick'n
PHOENIX
ビルマニア

―encore―
WINNER
WEEKENDER
FINAL COUNTDOWN
みらいのうた