TOUR 2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA(2013/03/23 ホクト文化ホール)

府中で約1か月前に観たライブについて、私はこう書いたid:ay8b:20130304。「いいライブだった。『素晴らしいライブだった』と言い切っても惜しくないほど、いいライブだった」。それから約1か月が経ってもう一度ライブを観た今、こんなふうに書いたことを少し後悔している。なぜなら、「素晴らしいライブ」を超える言葉を探さなくてはならないから――そんな「幸せな後悔」で胸がいっぱいになるライブだった。

全25公演のツアーの10本目。ツアー2本目の府中のライブに比べると、アレンジが変化した曲やさらにバンドの一体感が増した曲があって、今さらながら曲というのはライブのなかで育っていくのだと感じた。
とにかく吉井和哉の声がすごかった。前半の“CALL ME”“朝日楼”“シュレッダー”の流れで、歌うほどに声量が増しているようにさえ感じた。そんなボーカルの迫力にひけをとらないどころか、それを超える迫力でドラムを叩きのめしていた吉田さんの“シュレッダー”のドラムが前半のハイライトだった。曲のアウトロでボーカルではなくドラムに白い照明が注がれていたことの意味がよくわかる。

中盤のアコースティックセットは、<cry 口づけは/cry ハーモニカのように>という歌詞とシンクロするようにハーモニカを吹いた“4000粒の恋の唄”もやはり良かったけれど、それに続いて歌った“MY FOOLISH HERAT”が本当に本当に良かった。ベストアルバムの『18』のなかでもこの曲だけは特別な空気をまとっている感じがする。イントロが始まった瞬間にふっと心のなかに優しく暖かい波紋が広がっていくような感じがする。吉井和哉はとても安らいだ表情で歌っていた。
そして、この曲から再びバンドセット戻って続いた“BEAUTIFUL”と“BELIEVE”と“HERATS”の3曲に、今回のライブで最も心が揺さぶられた。“BELIEV”Eの<離れてもそばにいても/変わらない想いがある/人はみな 星になる そのわけは/その時わかる>のフレーズの後にステージに広がった満天の星空は,何とも言えない美しさだった。
“BELIEVE”の最後の<どうにもならない/とは思わずに/今を駆け抜けたい>という願いと、続く“HEARTS”の最後の<次の場所へ/さよならごめん/迷わず飛べ>という決意。どちらも別れと旅立ちの歌であるけれど、自分自身に言い聞かせるように歌っていた儚い願いが、自分以外の誰かをも励ますような強い決意に変わったところに、ソロになってからの「吉井和哉の10年」を感じた。

ライブ終盤は、1曲終わるごとにスタッフからギターを受け取りながら達成感に満ちた表情で会場を見る吉井和哉の姿がとても印象的だった。自分のライブに心の底から満足している表情だった。
ライブの最後の“血潮”。府中のライブでは最初からカホンと手拍子をつけて歌っていたけれど、このライブではワンコーラス目は吉井和哉のボーカルのみの完全なアカペラだった。自分の声、たったそれだけで歌うということを10年前は本人もファンも誰も予想していなかったと思う。でも、今はそれがとても自然で必然とさえ思える。この曲を歌い終わった瞬間、吉井和哉はまるで子どもみたいなはち切れそうな笑顔をしていた。

アーティストが「進化する」とか「成長する」とか、そんなふうに言うことがある。吉井和哉はまさにそうしたアーティストだと思う。けれど、吉井和哉のこれまでの歩みと今の充実した現在地を思うと、そんな言葉では表しきれない何かがあるような気がする。今回のライブのどの曲のどの瞬間だったかは覚えていないけれど、「あぁ、この人は〈自分の親〉になったんだなぁ。吉井和哉が〈吉井和哉〉を育てたんなだぁ」と思った瞬間があった。吉井和哉にとっての「成長」というのは、「自分が〈自分の親〉になる」ということだったんじゃないかと思った。言葉にするとなんてことのないような気もする。けれど、たとえ比喩であったとしてもそれが「〈親〉のいない自分」を認め受け入れることでもあるのだとしたら、一人のアーティストの成長のあり方として、それは壮絶だと思った。でも、だからこそ今の吉井和哉の歌は、こんなにも深く人の心に届くのだと思う。

自分のボキャブラリーの貧しさを率直に認めて、何度でも同じようにこう書きたいと思う。本当に素晴らしいライブだった。

吉井和哉(2013/03/23)セットリスト
トブヨウニ
点描のしくみ
I WANT YOU I NEED YOU
ゴージャス(THE YELLOW MONKEY)
CALL ME
朝日楼(朝日のあたる家)
シュレッダー
LOVE&PEACE
雨雲

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HATE
CALIFORNIAN RIDER
4000粒の恋の唄(THE YELLOW MONKEY)
MY FOOLISH HEART

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BEAUTIFUL
BELIEVE
HEARTS
LOVERS ON BACKSTREET(THE YELLOW MONKEY)
バラ色の日々(THE YELLOW MONKEY)
WINNER
WEEKENDER
FLOWER
血潮

Thanxx for Pyonta-san.