TOUR 2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA(2013/02/27 府中の森芸術劇場 どりーむホーム)

いいライブだった。「素晴らしいライブだった」と言い切っても惜しくないほど、いいライブだった。

リズムを強調したファンクっぽいアレンジの“トブヨウニ”で始まったライブ。その開放感と相俟ってステージの上の吉井和哉はとても「健やか」だった。ステージの上にいるアーティストを「眩しい」と感じるのはこういうなのかと思った。
アンコールなしの「バンドセット/アコースティックセット/バンドセット」という3部構成のライブが、とても新鮮だった。ベストアルバムリリース直後のツアーが総集編的な回顧ではなく実験的な挑戦を感じさせるところに、吉井和哉の頼もしさがある。吉井和哉は今本当に調子がいいんだと思う。

ライブのどこを切り取ってもハイライトと思えるようなライブだったけれど、ライブ中盤のアコースティックセットが特に印象深かった。アンティークの椅子(1930年代の船のバーで使われていた椅子)に腰かけて歌った“HATE”“Working Class Hero”“WANTED AND SHEEP”だけでも十分すぎるほどだったけれど、「すごく久しぶりに歌う曲です」と告げられた後に儚げなピアノのイントロに導かれて歌い出された“4000粒の恋の歌”が出色だった。
船中のランタンを模した白い照明の下で波に揺られるように体を揺らして歌う姿は本当に美しかった。身体全体が美しい影のようだった。そして、その曲はまるで、ロックスターを夢見ていた青年がロックスターとなった20年後の自分のために書き下ろした曲のようだった。最近のライブで吉井和哉が歌うイエローモンキーの曲には、そんなふうに「過去に予言されていた未来」を成就させるような不思議な時間感覚がある。過去に引きずられるのではなく、過去とまっすぐに向き合って握手しているような清々しさがある。
“4000粒の恋の歌”の後、暗いステージに紫の照明が射すなか蒸気船の汽笛と蒸気音が会場に響いた。この演出がとても良かった。その蒸気音を聞きながら“朝日楼”の「あたし」が乗った汽車のことも思い浮かべた。吉井和哉の世界では、恋を失った女性は旅に出る。どこかに辿りつくためではなく、そこを去るための旅に出る――蒸気音が遠ざかった後、バンドセットに戻って最初の“Beautiful”のイントロがいつも以上に優しく感じられたのは、それがそんな「彼女たち」の想いを慰めているように聞こえたからかもしれない。

ライブ終盤は、1曲演奏するごとに盛り上がりのピークを更新していくようだった。会場が大歓声に包まれた“LOVERS ON BACKSTREET”に続けて“バラ色の日々”という流れもすごかったけれど、個人的には1曲目の“トブヨウニ”同様力強くアレンジされた“WINNER”がとても良かった。そこには澄んでいるけれどただ透明なんじゃなくてちゃんといろんな想いを底に湛えて澄んでいる感じがあって、それは続く“Shine and Eternity”にも共通していた。吉井和哉の曲で唯一好きになれずにいたこの曲の良さがやっとわかった気がした。

ライブの最後は“血潮”。カホンと手拍子だけのアカペラで、吉井和哉はこの曲を歌った。というよりも「歌い切った」。この曲を歌う前、吉井和哉は「このバンドにはフラメンコギターがいません。だから…」と言っていた。けれど、この曲をスパニッシュギターをフューチャーしたアレンジにした時点で、この曲はライブでこんなふうに歌うことを予言していたんじゃないかと思った。自分の声、ただそれだけで歌う曲としてこの曲は作られたんじゃないかと思えるほど、それは本当に素晴らしく純粋な歌だった。ライブの途中で言っていた通り、アンコールはなかった。それは当然だと思った。この“血潮”の後に歌える歌はないと思えるほどの歌だったから――。

吉井和哉(2013/02/27)セットリスト
トブヨウニ
点描のしくみ
I WANT YOU I NEED YOU
ゴージャス(THE YELLOW MONKEY)
CALL ME
朝日楼(朝日のあたる家)
シュレッダー
LOVE&PEACE
雨雲

                    • -

HATE
Working Class Hero(Jhon Lennonカヴァー)
WANTED AND SHEEP
4000粒の恋の唄(THE YELLOW MONKEY)

                    • -

Beautiful
BELIEVE
HEARTS
LOVERS ON BACKSTREET(THE YELLOW MONKEY)
バラ色の日々(THE YELLOW MONKEY)
WINNER
Shine and Eternity
FLOWER
血潮