YOSHII KAZUYA .HEARTS TOUR 2012(2012/11/29 日本武道館)

とても感慨深いライブになった。
年末恒例の12月28日の「吉井武道館」でもなく新作アルバムを携えてたツアーでもない武道館でのライブは珍しいなと感じていた。正直、今このタイミングで武道館でライブをする必然性は何なのだろう、とも思っていた。
ライブが始まってしまえば、そんなひっかかりはほとんど解消してしまうほどに、歌唱も演奏も演出も会場の熱気もどれも十分すぎるほど十分だった。昨年の2つのツアーと比べてひけをとらないというよりも、昨年のツアーの力強さがすっかり定着した安定感と存在感だった。
セットリストの3分の1をYOSHII LOVINSON名義の曲が占めつつも、イエローモンキーの曲を序盤と中盤に挟みつつも、それらが回顧的な雰囲気にならずに“母いすゞ”や“点描のしくみ”などの新しい曲に自然に連なって「今の吉井和哉」として成立するところに、吉井和哉のアーティストとしての胆力がある。だからというべきか、にもかかわらずと言うべきか、その頼もしさの影でライブ終盤まではどこか冷静にライブを観ている自分がいた。

けれど、本編最後の“TALI”の前、YOSHII LIVISONでソロデビューした当時のことを振り返る吉井和哉の言葉を聞いて,とても心が揺さぶられた。長いMCだった。その中で、吉井和哉が「YOSHII LOVISON」をとても大切にしていること、そしてそんなYOSHII LOVINSONの音楽を聞いてくれたファンに心から感謝していることが伝わってきた。「YOSHII LOVINSONにやさしくしてくれてありがとう」という言葉を聞いたとき、何とも言えない気持ちになった。バンド時代も含めて、吉井和哉のMCを聞いて涙が流れたのは初めてだった。そして、このMCに続く“TALI”を聞きながらいろんなことが頭の中を駆け巡った。

思えば、吉井和哉の音楽を聞いているとき、私は自分の寂しさを見なくて済んでいた。吉井和哉がどんなに寂しい歌を歌っても、むしろそういう歌を歌ってくれるほど、私は自分の寂しさから目を逸らすことができていた。会場のスクリーンに映し出された“TALI”を歌う吉井和哉はとてもすっきりとした表情をしていた。その表情を見て、かつてのYOSHII LOVINSONはとても寂しそうな顔をして歌っていたことに気づいた。けれど、当時の私は自分の寂しさから目を逸らすことに精一杯でそんな歌の奥にある寂しさを感じてはいなかったのだと思う。そして、それはもしかすると、当時のYOSHII LOVINSONにとっても同じだったのかもしれないと思った。寂しさの渦中にいて寂しい歌を寂しい表情で歌いながら、吉井和哉もまた自分自身の寂しさから必死で逃げようとしていたのかもしれないということ。

吉井和哉は寂しい顔をしなくなった」――これが、『THE APPLES』以降の吉井和哉の変化なのだと思う。けれど、それは寂しさから解放されたということではなく、寂しさから逃げずにそれを受け止める強さを持てるようになったということではないかと思う。吉井和哉が強くなったのだとしたら、その強さは「寂しい自分」を誤魔化すことも恥じることもなく引き受けられる強さのことではないかと思った。だから、これからの吉井和哉は本当の意味で「生きることの寂しさ」を歌えるアーティストになるのかもしれないと、<西日で部屋の全部がオレンジ色になっちゃって/未来がぼんやりでもおびえることなど何もない>と歌う吉井和哉を見て思った。

そして、アンコールの最後に歌った新曲の“HEARTS”(出色!)は、いろいろな形の「心と心の歌」として聞こえる歌だった。私には吉井和哉が自分の内なる寂しさ(YOSHII LOVNSON)に向けて歌っているように聞こえた。

追いつけないほど遠くへ行ったけど
あなたはいつもそばにいる気がした

ライブが終わった後、ライブの余韻のなかでいろんなことを考えた。「寂しい顔をした吉井和哉」はもういないのだと思ったら、やっぱり少し寂しくて、切ない気持ちになった。けれど、自分はもう自分の寂しさから目を逸らすために吉井和哉の歌を必要としなくてもよくなったのだと思ったら気持ちが軽くなった。
自分の寂しさから目を逸らすためではなく、自分の寂しさを自分で引き受けるために吉井和哉の音楽を聞くということ――自分が予想していなかった場所に自分が立ったような不思議な心境。けれど、この心境は不安よりも期待に似ている。だから、これからの吉井和哉の音楽が本当に楽しみだと感じる。

吉井和哉(2012/11/29)セットリスト
20GO
煩悩コントロール
欲望
SPARK(THE YELLOW MONKEY)
ロンサムジョージ
SIDE BY SIDE
いすゞ
CALL ME
ノーパン
BLACK COCK’S HORSE
太陽が燃えている(THE YELLOW MONKEY)
ONE DAY
VS
点描のしくみ
ビルマニア
TALI


−encore−
ロックンロールのメソッド
PHOENIX
WEEK ENDER
HEARTS