『トライアル』

ピロウズの18thアルバム『トライアル』。
「チャレンジ」ではなく「トライアル」。その言葉の微妙なニュアンスが、今のピロウズの、山中さわおのモードを反映しているのだと思う。アルバムタイトルに呼応するように、収録曲の歌詞には<何度も>(Revial,Minority Whisper,トライアル,Ready Steady Go!)、<再び>(Revival,トライアル,Ready Steady Go!)という言葉が繰り返し出てくる。それは、前向きな決意を示すと同時に、その旅路で繰り返される絶望にも触れている。このアルバムは複雑な胸の内を明かしたアルバムなのだと思う。
シングル曲(Cosmic Sonic,エネルギヤ)でのピロウズ一流のエバーグリーンな瑞々しさの一方で、乳児と骸骨が乗った飛行機のジャケットと病院の新生児室の写真で始まり墓地の写真で終わる歌詞カードがほのめかすように、このアルバムにはどことなく「無常感」のようなものが漂っている。何度でも再び繰り返す<ヨ・ロ・コ・ビ/カ・ナ・シ・ミ>(Revival)。

そして、山中さわおの「悲しみ」はいったいどこからやってくるのだろう、と思った。

愛を知って悲しくなった
汚れた手で触れない
キミを知って苦しくなった
僕の嘘じゃ騙せない
闇を知って楽になった
そして二度と戻れない
自分を知って嫌になった
消せるのなら消し去りたい

アルバムの後半、“持ち主のないギター”のこのフレーズに続くシャウトが、どうしようもなく耳に残る。鋭く胸に突き刺さる。この曲だけじゃなく、“ポラリスの輝き 拾わなかった夢現”で歌われる孤独にも、“Minority Whisper”で歌われる居心地の悪さにも、そして、表題曲“トライアル”で歌われる前進の決意にも、その底には得たいの知れない悲しみ、耐え難い寂しさのようなものが見え隠れする。この曲をライブで聞いたときに自分の中に湧き上がる感情を想像して泣きそうになる。

ピロウズは月や太陽といった光を放つものを「キミ」に重ねて恋い焦がれる歌の印象が強い。けれど、このアルバムでは「星」が何度も登場する(Flashback Story,ポラリスの輝き 拾わなかった夢現,持ち主のないギター,トライアル)。そして、その星はどれも孤独な旅路を照らし、その旅路の果てにある*1。新たな旅立ちの高揚でも、最終的な到達の喜びでもない、旅路の途中の感傷と憂鬱が、このアルバムにはある*2
ピロウズの歌う「トライアル」には、回数では測れない、深さがある。その深さに感動する。だから、私はピロウズが好きだ。

トライアル(DVD付)

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*1:山中さわおにとって星は孤独の象徴なのかもしれない。

*2:そんな繊細で複雑な感情を扱いながら、それを端正なロックアルバムに仕上げるソングライティングとバンドの胆力。今作は特にギターが耳に残る。