ザ・クロマニヨンズ TOUR ACE ROCKER 2012(2012/02/16 SHIBUYA-AX)

新作『ACE ROCKER』が素晴らしく、待ちに待ったライブ。雪の舞う、まさに<凍りついた月が香る>(シャイニング)夜。
新作と同じく、ライブの1曲目は“他には何も”。

やらずにいられない 事があります
やらずにいられない 事をやるだけなんだ
ただ それだけ
他には何も 他には何も 何も何も何も

そう歌いながら全身を震わせるヒロトは、自分の歌う歌詞さえも追い抜いて、有言実行の真っただ中を疾走していた。
詩情豊かな新作の曲は、ライブで聞くと言葉ひとつひとつの輪郭がはっきりとしていて、それに輪をかけるようにヒロトはとても丁寧に歌っていた。なかでも特に、全身に力を込めて噛みしめるように歌った“ハル”が印象的だった。<お星様 お星様/逃げません 僕はもう>のところで、この曲は誓いの歌だったのだと気づく。そんな「CDで何度も聞いていたのに気付かなかったこと」の発見があるのは、その曲を初めてライブで聞いたからというよりも、それが「今、この瞬間」に生き直されているからなのだろう。たとえそれがライブで何度も繰り返し演奏されてきた曲だとしても。

前回のツアーのセットリストは『Oi! Um bobo』の曲順通りに演奏して、アルバムのA面(1〜6曲目)、B面(7〜12曲目)というターンがあったけれど、今回のセットリストにはそういう区切りがない。新作の曲をたて続けに演奏した後、過去のアルバム曲とシングルを織り交ぜながらさらにたて続けに演奏して、最後にシングル曲を怒涛のごとくたたみかけてくる。<LUST FOR ROCK'N ROLL>(欲望ジャック)に突き動かされるというのはこういうことだと言わんばかりの勢いで。
そして、本編終盤の“エイトビート”で<エイトビートエイトビート>と連呼するその狭間で連打されるドラムのリズムとともにヒロトは、激しく体を揺らす。散弾銃で撃たれて崩れ落ちるように。映画『俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)』のラストシーンを思い出す。生きる理由が「ロックンロール、ただそれだけ」であるならば、死ぬ理由もまた「ロックンロール、ただそれだけ」なのかもしれない。ライブの最初に<他には何も>と歌っていたように。

アンコールの1曲目の前に、ヒロトはこう言った。「言いたいことは、あの、別に何もないんだけど、あの…何でも絶対うまくいくから、みんな勇気だして行けよー」。このときのヒロトの、最初はためらいがちに、次にちょっとはにかみながら、そして最後は力強く、というその言い方が何とも言えず良かった。この言葉に続いて演奏された“49cc”(ツアー初披露!)の<不安か? ちょびっとね/心配か? ちょびっとね>という気持ちを言い当てているようだった。このMCとこの曲が、<他には何も>という全身全霊のロックンロールに優しい陰影をつけたような気がした。

このツアーで、マーシーは50歳になった。ヒロトは49歳になる。

ザ・クロマニヨンズセットリスト(2012/02/16)
他には何も
欲望ジャック
バニシング・ポイント
ゴー ゲバー ゴー
シャイニング
ライオンとサンシャイン
ハル
連結器よ永遠に
ムーンベイビー
あったかい
スピードとナイフ
伝書鳩
グリセリン・クイーン
底なしブルー
ひらきっぱなし
オートバイと皮ジャンパーとカレー
紙飛行機
エイトビート  
雷雨決行   
ナンバーワン野郎!
 
(encore)
49cc
ギリギリガガンガン
弾丸ロック