THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR(2020/02/11 京セラドーム)

開演5分前、白いユニフォームが眩しいブラスバンドがステージ左右の端に並びフランク・シナトラの‟My way”を堂々と奏でた後、趣を変えてアッパーな演奏が始まったと思ったら、そのメロディは‟見てないようで見てる”だった。その演奏が進むにつれて徐々に会場の照明が落ちていき、ステージにメンバーが登場した。1曲目は‟ロマンティスト・テイスト。どこか余裕さえ感じさせる、華やかなライブの幕開けだった。
ステージに登場した吉井和哉は、鮮やかな緑のジャケット、紫のシャツ、赤いパンツ、アニマルプリントのネクタイ、ゴールドの靴――まるでヒース・レジャーホアキン・フェニックスの「ジョーカー」を掛け合わせて、それをさらにクレイジーにしたような出で立ち。ジョーカーの方が上品に見えるほどの、その派手な姿は「ロックスター」という「絶滅危惧種」の存在をあえてアピールしているようでもあった。2020年の現在においては、ジョーカーの方がスタイリッシュに思えるほど、ロックスターというスタイルはちょっと時代遅れであるのかもしれないということ。けれど、そのことを吉井和哉が意識していないはずがなく、その姿にはむしろ時代遅れ(かもしれない)のロックスターを全うしようとする覚悟のようなものを感じた。

すべてのライブでセットリストを変えるという今回の3大ドームツアーの趣旨通り、12月28日の名古屋ドームと大きく変わったセットリストは、「ザ・イエローモンキー」に期待されるロックンロール・チューンを十二分に詰め込んだとてもキラキラしたセットリストだった。「完璧」なまでにファンの期待に応えたセットリストだと思った。

その中で、個人的に印象に残ったのは、2001年の活動休止直前の曲だった。‟カナリヤ” “バラ色の日々” ‟BRILLAINT WORLD”――これらの曲に貼りついた、あの当時の今思い出してもヒリヒリとするような感情は、今となってはどこか懐かしくもある。特にライブ本編の最後に歌われた‟BRILLIANT WORLD”。<最高の世界へ>と歌われたものの、それがどこか空手形のように聞こえ、何が「最高」なのか見失ってしまったがゆえの解散なのだと当時は感じた。けれど、20年を経て歌われるその美しい言葉と美しいメロディは大型スクリーンに映し出された吉井和哉の当時と変わらないどこか張りつめた表情と相まってとても感動的だった。

‟バラ色の日々”の直前のMCで吉井和哉は、「60年代70年代のロックンロールの魔法」を追い求めているのだと語った。ロックンロールの奇跡や夢を追い求めているというその言葉とは裏腹に、今日のライブはこのバンドがすでにその奇跡や夢を成し遂げていることを示してもいた。だから、ドーム級のライブにおいてすらどこかリラックスした余裕を感じさせるこのバンドにとっては「この先どこに向かうのか」というビジョンの曖昧さだけが、バンドの弱点なのかもしれないと感じた。

今回のドームツアーをもってバンド活動を少し休むことについて、吉井和哉はバンドを継続させるためなのだと語っていた。「継続こそ前進」と。けれど、その「前進」の先にあるものが何なのか、吉井和哉自身今ひとつその答えを掴みあぐねているような、的確な言葉で言い当てられないような、そんな印象が残った。けれど、だからこそ、夢を追うことを歌った「バラ色の日々」で<I'm just dreamer>と歌う吉井和哉の表情はどこか切実でもあった。

ライブの最後は、今日初めてライブで演奏された曲だった。バンド再集結にあたって最初に作られていた曲‟未来は見ないで”。「時計のリューズ」「薄紅色」「ほうき星」――吉井和哉の詩才の繊細さと奥深さがメロディの優しさとともにぎゅっと胸に迫ってくる曲だった。未来へ踏み出す覚悟を仄めかしつつ「もう少しだけ立ち止まっていたい」という言葉にならない感情に後ろ髪引かれているこの曲が、ドームライブの最後で歌われることの意味を考えた。そう考えながら見つめたステージには白い照明の線描が幾重にも交差していて、まるでイエローモンキーがガラス細工のドームの中で演奏しているような美しさだった。

明るい未来を前に立ちすくんでいるようなこの曲は、闘い続け、勝ち抜いた者だけが感じる稀有な感傷なのかもしれないと思った。夢を叶えようとすること自体がひとつの「夢」ならば、「夢が叶う」ということは「夢の喪失」であるのかもしれない。十分すぎるほど完璧なライブの最後に<未来は見ないで 今はここにいて/昔のことだけ 話したっていいから>と歌う吉井和哉は、もしかするとそんな「夢の喪失」と向き合っているのかもしれないという気がした。それをどう乗り越えるのかという答えは、このドームツアーではなく、その先、休止後の再始動にあるのかもしれないと思った。

いいライブだった。けれど一方で、単に「いいライブだった」で終わらせなくない複雑な気持ちにもなる何かが今回のドームツアーにはある。

THE YELLOW MONKEY セットリスト(2020/02/11)
Romantist Taste
楽園
Rock Star
Ballon Ballon
FINE FINE FINE
MOONLIGHT DRIVE
球根
カナリヤ
Four Seasons
Foxy Blue Love
SLEEPLESS IMAGINATION
砂の塔
嘆くなり我が夜のFantasy
LOVE LOVE SHOW
JAM
DANDAN
ロザーナ
天道虫
SAPRK
バラ色の日々
太陽が燃えている
SUCK OF LIFE
BRILLIANT WORLD

 ―encore―

SWEET&SWEET
ARLIGHT
悲しきASIAN BOY
未来はみないで(新曲)