劇団フライングステージ第43回公演『LIFE,LIVE ライフ、ライブ』(2017/11/12 下北沢offoffシアター)

渋谷区と世田谷区で始まり、全国の複数の自治体にも広がっている同性パートナーシップ申請(宣誓)をめぐる、3部作の3作目。2015年上演の1作目『Firiend,Freiends 友達、ともだち』、2016年上演の2作目『Family,Familiar 家族、かぞく』に共通する登場人物達のその後を描いた本作は、友達、恋人、夫婦、親子、そしてそのどれにもあてはまらない関係も含めた様々な「つながり」のあり方について、「問いと答え」を同時に喚起していた。観終わった後、せつないけれど温かい気持ちになったのは、登場人物達が皆時に揺れながら、時に迷いながらも、それでも誰かとつながろうとするその気持ちには正直であろうとしていたからなのかもしれない。


1.紙一枚の重さ
主人公が「ゲイの行政書士」であるから当然とは言え、劇中ではさまざまな書類の名前が登場した。同性パートナーシップ申請、住民票、遺言状…。「紙切れ1枚」と言えばそれまでだが、その1枚に縛られたり、支えられたりする人間模様はセクシャルマイノリティであるかどうかに関わらず、誰の人生にも訪れるさまざまな岐路を浮かび上がらせていた。こだわりすぎるのは滑稽だが、軽んじるには重い――恋人や家族との関係で葛藤しつつも、屈託のない明るさとともに粛々と仕事を進める主人公の佇まいは、「うまく生きること」の絶妙なバランス感覚を体現しているようでもあった。
会社のホームぺージに「ゲイの行政書士」と書かれたことで、なし崩し的にカミングアウトすることになっても、それが物語の「山場」ではなく「きっかけ」に位置づいている点に、時代の流れとも言うべき、セクシャルマイノリティと彼らを取り巻く世間の変化を感じた。


2.親の横顔
物語の後半、ゲイの息子を持つ二人の母親(ミーちゃん、ケイちゃん)の存在が物語をより多面的にしていた。この一連の3部作では親の横顔や心情が、主人公のゲイ達以上に奥行を持って描かれていると感じる。
息子が「ゲイの行政書士」であること(と、それを知らされていなかったこと)に動揺する母親(ミーちゃん)と、ゲイの息子を自死で失った母親(ケイちゃん)が結託して一芝居打って「ゲイの行政書士」の息子の本音を引き出す場面は、官公庁に提出する書類や権利義務・事実証明の書類では扱えない、不確かだけれど最も必要な「つながり」を描き出していた。「母親の面倒を見る」という息子の言葉を母親はちゃっかり録音していたというのが、この場面のオチだったけれども、個人的には録音はしなくても良かったんじゃないかと思った。書類も音声記録もなく、何も証明するものがないとしてもそれを信じればいいんじゃないかと思ったから。


3.他人のため/自分のため
セクシャルマイノリティを含めて人を孤立させないためのNPO法人(その名も「ノット・アローン」)や彼らが運営する子ども食堂、ゲイのカップルが被虐待児を養子に迎える養育里親など、同性パートナーシップ申請(宣誓)以外にも、この物語には新しい「つながり」のあり方がいくつも登場していた。「誰かとつながりたい」という至極プライベートで利己的な欲求が、「誰かのためになる」という公共の福祉を通して実現されるということ。
思えば物語の中で、主人公は何度も「自分のためより他人のため(他人のためより自分のため)」という言葉を発していた。「自分のため」と「他人のため」。利己と利他――この2つのベクトルが交差するところに、新しい家族の形のあり方が模索されているところがとても示唆的だと思った。そして、それはちょうど、劇場で配布されたパンフレットの中の、劇団の主宰者である関根信一さんのこんな言葉に重なった。

フライングステージを続けてきた理由、実は僕にはとても個人的なものがあります。それは演劇を始めた若い頃、そういう劇団があってほしいと思ったからです。「自分はゲイじゃない」と言いながら海外のゲイプレイに出演する俳優さんたち、そうではなくて、「あ、僕はゲイですけど何か?」と言えるようなカンパニー。その上でいろいろな作品を作りだしていくことができたら。

「そういう劇団があってほしいから」(※)という個人的な理由に根差しながらも、根差しているからこそ、劇団フライングステージのお芝居は、それを超えて「誰かのため」にも届くのだと思う。
劇団フライングステージは今年で25周年を迎えた。後世に「日本のセクシャルマイノリティ史」ということが論じられるとき、この劇団の存在意義と影響について誰かが言及するのだろう。だとしたら、その時に、この劇団の発端が「そういう劇団があってほしいと思ったからです」という個人的な理由であることがしっかりと記されてほしいと思う。その理由はとても素敵なことで、とても勇気のあることだと思うから。


※今から15年前、劇団フライングステージが10周年を迎えた際の、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭の公式サイトでのインタビューでも、関根さんは同様のことを語ってた。
http://rainbowreeltokyo.com/2002/2002_03/07_fs01.html

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