SUMMER SONIC 2016(2016/08/21 QVCマリンフィールド&幕張メッセ)

4年前に吉井和哉がソロで出演した時のことを思い出した。ライブというよりもその時の天気のことを。ライブが始まってから雨が本格的に降り出して、降ったり止んだりしながら最後には晴れて虹がかかっていた――という、そんな展開の空模様は、今にして思えば、イエローモンキーの活動休止から解散、そして再集結までの吉井和哉のキャリアの隠喩のような気がした。そして、夏の終わりを予感させる少し厚い雲のかかった空の下、ザ・イエローモンキーのライブが始まった。
1曲目は、この曲を1曲目に予想し得た人はおそらく絶無と思われる“夜明けのスキャット”。豪奢かつ清楚な白いドレスの由紀さおりがほぼオリジナル通りのギターのイントロに乗って登場した後、会場中に漂ったポカーンという空気の中を、ゆっくりと堂々と、そして「してやったり」な表情で吉井和哉は登場した。この「裏をかく」演出が、イエローモンキーの長年のファンにとっても、イエローモンキーが初見となるフェスの観客にとっても、「予想を裏切る」ものであったと同時に「期待に応える」ものであったところは、流石だった。
そして、真夏の野外で“夜明けのスキャット”を聞くという贅沢な時間を通して会場中の「ザ・イエローモンキー」への期待を最大値にまで高めたところでの、2曲目の“BURN”そして“ROCK STAR”という流れは、期待通りでありつつ軽く期待を超えて、イエローモンキーのライブの色気と迫力を見せつけるものだった。
ステージを挟む左右のスクリーンには、度々アリーナの観客がアップで抜かれていて、ライブ前半は涙ぐんでいるような感無量といった表情の女性が多かったけれど、ライブが進むにつれて熱唱する男性が多くなっていたのが印象的だった。そして、イエローモンキーの後に出演するバンドの存在があるにせよ、途切れることなく観客がアリーナに入り続け、両手を捧げる観客の波がアリーナの後ろまで広がっていったことが、この日のライブの良さを何より証明していたと思う。そして、そのことをバンド自身が感じながらのライブだったように思う。まさにちょうど、“楽園”の<君が思うほど僕は弱い男じゃないぜ>で、吉井和哉は「僕」を「僕ら」と自分達を指さすように歌っていたように。
いいライブだった。そして、吉井和哉は「幸せ」そうだった。

ザ・イエローモンキーセットリスト(2016/08/21)
夜明けのスキャット(with 由紀さおり)
BURN
ROCK STAR
ALRIGHT
SPARK
楽園
バラ色の日々
パール
LOVE LOVE SHOW
JAM


付記:レディオヘッド
マリンステージのヘッドライナーはレディオヘッドサカナクションのライブ後、大がかりなセットチェンジと入念なサウンドチェックの間、渋谷公会堂で来日公演を観たのはもう20年(!)も前だったのかと思うと少し不思議なような、感慨深い気持ちになった。嫌いになったわけでも明確なきっかけがあったわけでもなく『KID A』以降、いつの間にかこのバンドの音楽を聞かなくなった理由を思い出そうとしたけれど、思い出せなかった。けれど、久しぶりに聞いた“NO SUPRISES”と“LET DOWN”には、やはり泣きそうになってしまった。
長い時を経て観たレディオヘッドはやはり「レディオヘッド」としか言えない音楽で、トム・ヨークは相変わらず「トム・ヨーク」だった。オレンジ色の粗い画像でメンバーを部分的に映すステージセットも兼ねたスクリーンは、決して明確にトム・ヨークの表情を映すことはなかった。限りなくエモーショナルでありながらどこか無機質で、心に刺さるようでありながら埋めがたい距離を感じさせるそのライブは、このバンド自体が「ロック」や「ロックフェス」の構造的な逆説を批評しているように感じた。
アンコールの“CREEP”――イントロのギターの最初の一音が鳴ったその瞬間、会場全体から悲鳴のような歓声が湧き上がった。<I'm a creep(僕はクズ)>というフレーズがが会場中を埋め尽くす歓喜と感動とともに歌われ、<I don't belong here(ここは僕の居場所じゃない)>というフレーズを歌うロックスターが拍手と喝采を浴びるという逆説。その逆説が突きつける矛盾をどう説明していいのかは分からない。けれど同時に、その矛盾を超えて余りある“CREEP”という曲の美しさもまた確かなことだと思った。