THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016(2016/05/11 国立代々木競技場第一体育館)

2016年5月11日19時00分00秒。歓声がもはや悲鳴に変わりそうなほどの興奮と歓喜のなか、ザ・イエローモンキーは帰ってきた。あの日確かに信じたものが幻なんかじゃなく、現実としてそこにあった。

ステージ前面の半透明の幕に浮かびがった4人のシルエットを見て、1曲目のイントロを聞いたその瞬間、「まさかこの曲が」という驚きと「この曲しかない」という納得がほぼ同時に全身を駆け抜けた。同時に、自分の中にあった疑いと怯えが一瞬のうちに溶けてなくなってしまった。というよりもむしろ、その瞬間に胸の奥がせつなく温かくなるのを感じて「あぁ、私は疑っていたんだなぁ、信じきれていなかったんだなぁ」と、自分の中にあった疑いと怯えに気付いた。
「再集結」ツアーのライブ初日、その1曲目が「プライマル。」であることに、バンドとファンに対する吉井和哉の誠意と今回の「再集結」に対する覚悟を感じた。たくさんの希望と絶望と興奮に彩られた過去を「なかったこと」にしての再会ではなく、その過去に正面から向き合った上での再会を吉井和哉は選んだのだと思った。そのことに、ファンとしての感謝と敬意、そして幸福を感じた。
2001年1月8日の東京ドームでのライブをもってバンドが活動休止した後に、置き手紙のようにリリースされたシングル「プライマル。」。デヴィッド・ボウイなどのプロデュースで知られるトニー・ヴィスコンティとの共同プロデュースで、ホーンセクションのファンファーレのようなイントロの華やかさとは裏腹に、ジャケットでもMVでもサングラスをしたままどこか不機嫌で真意を探られまいとしているような吉井和哉の姿が印象に残った曲。別れの切なさと旅立ちの清々しさの両方に軸足を置きつつ、そのどちらも信じきれていないような、決着が宙吊りにされたままになった曲。その曲が初めてライブで演奏されているのを聞きながら、この曲はまさに今日のこの日のために書かれた曲だったんじゃないかと思った。その歌詞はまるで「バンドの再集結を決意した吉井和哉」がタイムマシンで15年前の過去に遡って「バンドの活動休止を決意した吉井和哉」に書かせたようだと思った。
曖昧にはぐらかしたままになっていた別れの挨拶を改めてし直し、かつ同時に再会の握手を力強く交わすということ。繊細に絡まり合った感情の機微に真摯に率直に向き合うという、そんな逃げ出したくもなるような複雑な決意がこの選曲には込められていると思った。だから、<ありがとう絆と先々の長い願い/花柄の気分もまた1日のうちたった6秒>と歌われて、涙がこみ上げてきた。15年前からずっと、バンドもファンも<1日のうちたった6秒>しかないような淡い絆と願いを、それでも途切れることなく持ち続けてきたのだと気づいた。そして、その絆と願いは、決して「自然の成り行き」に任されていたのではなく、弱く儚くとも確かな「意志」によって選択され続け、その結果が、この日ライブとして結晶したのだと思った。

ステージを背後から囲むように配置された大型ビジョンに映る吉井和哉の目には、2曲目の“楽園”をはじめ、ライブ中何度も光るものがあった。同時に、ライブが進むにつれてその表情がだんだんと「イエローモンキーの吉井和哉」になっていくところが、このバンドの凄さなのだと思った。“薔薇娼婦麗奈”で歌の主人公が憑依したような、老婆と少女と聖母と娼婦が混ざり合ったような、吉井和哉以外には浮かべることのできない美しさを湛えた表情は、特に印象的だった。この吉井和哉のパフォーマンスも含めて、この曲は確実この日のライブのハイライトのひとつだった。そして、この曲以降、吉井和哉の表情は完全に「イエローモンキーの吉井和哉」になっていた。

いわゆる「代表曲のオンパレード」では決してない、バンドの歴史とアイデンティティをファンとともに改めて確認するような、こだわりに貫かれつつもバランスのよいセットリストは見事だった。その中には、バンドの比較的初期の曲だけでなく“BURILLINAT WORLD”といった活動休止直前の曲も含めて「この曲は実はこういうふうに歌われることを待っていたんだ」と思える曲や、“SPARAK”や“Tactics”など「あれ以上にカッコよくなる余地があったんだ」と思える曲がいくつもあった。その意味で、イエローモンキーを通してイエローモンキーの素晴らしさを再発見し再確認するという、圧巻のライブだった。その感動はノスタルジーに留まることなく、今ここで「新しい何か」が目覚めていくことに対する驚きにつながっていた。

吉井和哉の2011年のソロツアーで披露された印象的なギターのイントロで始まる“球根”以外は、どの曲もほぼオリジナル通りのアレンジだったこと、特に最後に歌われた“JAM”が「I'm dreamer…」のアウトロのないCDそのままのアレンジだったことに、15年の時を経てこのバンドが見つけた理想形がすでに「ザ・イエローモンキー」として存在していたという、幸せな逆説を感じた。はるか遠くの虹を追い求めていたはずが、実は最初から虹の上を歩き続けていたとでもいうような――。

ライブ本編の終盤、「イエローモンキーを続けていきます」と宣言した後の吉井和哉は、愛の告白を終えて肩の荷が下りたような、とてもすっきりした表情をしていた。吉井和哉がこのバンドを愛しているということだけでなく、このバンドを愛し続ける自信を持っていることが伝わってきた。裏返せば、吉井和哉がバンドを活動休止し、解散した理由は、バンドを愛し続けることに自信が持てなくなってしまったからだったのだと思った。
そして、そのバンドを愛し続ける力を得た吉井和哉の力強い歌声を聞きながら、これまでもそうであったようにイエローモンキーというバンドに「現状維持」という選択肢はないのだとしたら、イエローモンキー史上最高のライブを成し遂げてしまったこの日を出発点にして、さらに高みを目指すというのはどういうことなのかと考えた。とても想像できるものではないと思った。でも、だからこそ、それは挑む価値があり、それに挑み続けることがこのバンドにとって、吉井和哉にとって夢をかなえるということなのだと思った。それを発見したからこその、「再集結」なのだということ。

ザ・イエローモンキーというバンドのファンであるということは、バンドを、音楽を、そして人生を愛するとはどういうことなのかを学び続けることなのかもしれない――そんなふうに思った。大袈裟かもしれないけれど、それは決して大袈裟ではないと言える、そんなライブだった。だから、この日のライブを私はずっと忘れないと思う。
素晴らしいライブだった。

THE YELOOW MONKEY セットリスト(2016/05/11)
プライマル。
楽園
LOVE COMMUNICATION
Chelsea Girl
A HENな飴玉
Tactics
LOVERS ON BACKSTREET
薔薇娼婦麗奈
球根
カナリア
HOTEL宇宙船
花吹雪
空の青と本当の気持ち

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バラ色の日々
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Thanxx to Ryooooooooco-san & her friend.