羽矢瀬智之さん

劇団フライングステージのメールマガジンで羽矢瀬智之(はやせ ともゆき)さんが亡くなったことを知りました。34歳でした。突然のお別れは、こんなにもさびしく悲しいものなのかと思いました。

私が初めて観た羽矢瀬さんのお芝居は、2000年7月の『Nude』でした。まだ「早瀬知之」という名前だった羽矢瀬さんは21歳でした。整った顔立ちと華奢なその姿は、陳腐な表現ではあるけれど「少女マンガから飛び出してきた」ようでした。
大変失礼なことに、その当時の私は「この人はそんなに長くお芝居の世界にはいないんじゃないかな…」という印象を抱いていました。けれどそれは、劇団に入って間もなかった羽矢瀬さんの初々しくぎこちない演技のせいではなく、羽矢瀬さんのあの存在感によるものだったと思います。
私にとって、羽矢瀬さんは舞台の上に立つ人が帯びる表現者としての我の強さのようなものをあまり感じさせない人でした。その代わり独特の透明感と柔らかさを感じさせる人でした。10年以上にわたって劇団の一員として活躍し、役者としてのキャリアを積み重ねていっても、その存在感は変わらないままだったように思います。

去年、3年ぶりに劇団フライングステージのお芝居を観に行ったとき、終演後に私を見て「あぁ、○○(私の名前)さん!」と驚きながら見せてくれた笑顔を思い出します。さわやかな柔らかい笑顔でした。
また、私が主宰者の関根さんに挨拶しようと待っているのを気遣って「関根さんもうすぐ出てきますよ」と声をかけてもらったことも思い出します。思えば、私はいつもお芝居の感想を関根さんにお話ししていて、羽矢瀬さんに直接伝えたことはほとんどなかったように思います。羽矢瀬さんにももっとお芝居の感想を伝えればよかったと後悔しています。

2006年8月に羽矢瀬さんが主演した『ムーンリバー』を観たときの文章を読み返してみたら、こんなふうに書いてありました。

そんななか、主人公の表情はお芝居全体を通して、憂いをたたえながらも少しずつ「強さ」を感じさせるようになっていく。同級生たちが自分のなかにある「想い」に気づきはじめることで少しずつ複雑な表情を見せるのとは対照的に。その主人公の表情に浮かんだ「強さ」が、誰の恋も叶わないこのお芝居のラストにか弱くも確かな希望を与えてくれているような気がした。
たとえ想いが報われず、表情が憂うことが「大人」になることだとしても、それが「自分を生きる」ということなのかもしれないのだから。

今さら遅いけれど、羽矢瀬さんのお芝居、よかったです。そして、劇団フライングステージの舞台に立つ羽矢瀬さんに出会えたことに感謝しています。ありがとうございました。

羽矢瀬智之さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。

http://www.flyingstage.com/moon_river.html