Don't Look Back in Anger

吉井和哉のソロアーティストとしての初めてのベストアルバム『18』を一言で表すとしたら、「感慨深い」という言葉になる。これまでにいろんなアーティストやバンドのベストアルバムを聞いていたけれど、こんなに「感慨深い」と感じるのは初めてのような気がする。選曲からも曲順からも、吉井和哉が自分自身のソロとしてのキャリアに真摯に向き合い、深い愛情を持ってこのアルバムを作ったことが伝わってくる。
その「感慨深さ」は、Disc3(初回限定盤のみ)に収録された“Don't Look Back in Anger”を聞いたときに湧き上がる何とも言えない気持ちに似ている。懐かしさと切なさとおぼろげな希望が混ざり合ったような気持ちに。今回、この曲が音源として収録されて本当に嬉しい。カヴァーではあるけれど、ソロアーティストとしての吉井和哉にとってとても重要な1曲だと思う。この曲の最後の<飛び立て/さあ行きなさい>という優しい励ましは、新曲“HERATS”の最後の<迷わず飛べ>という力強い決意を予言していたのかもしれないと思った。

以下の文章は、私が以前に書いていたブログの5年前の記事(読み返してみて気になるところを少しだけリライトしました)。当時コメントをくれた「マリさん」がこの曲を聞けていたらいいなあと思う。

吉井和哉 Don't Look Back in Anger
去年の秋から今まで、一番よく口ずさんだのは吉井和哉の“Don't Look Back in Anger”だと思う。「Genius Indian Tour」で初めて聞いたときの驚きと感動。それからふとした瞬間に「チキンライスによく似た〜」と歌っていた気がする。
吉井和哉がオリジナルの日本語詞をつけてカヴァーした曲のなかでも特に吉井和哉の詩才があふれている曲。

チキンライスによく似た 脂ぎった赤い怒り
世界一になれるなら この身体いらないから
神様どうか神様 僕に優しさがあるなら
もう必要ありません
悪気なんかないのに人を傷つけて
空の青さが残った


そうシャレにもならない出来事の多さ
もっと遠くへ Don't Look Back in Anger
放て


1997年の10月はロンドンにいた
ケンジントンで流れたこの歌が大好きさ
家族は仲良しでいるかい?イジメとかにあってないかい?
君が大事にしてるものほど これからも更に奪われていくだろう
でも生きていかなくちゃなぁ


そう誰にも見えない未来を行かなくちゃ
風にゆれる Don't Look Back in Anger 
あじさい


そうシャレにもならない出来事の多さ
もっと遠くへ Don't Look Back in Anger
放て

そう初めて感じる喜びの多さ
過去を抱きしめ Don't Look Back in Anger 
Don't Look Back in Anger
飛び立て


さぁ行きなさい

原曲の<Slip inside>を<チキンライス>、<So Sally can wait>を<そうシャレにも>、<I heard you say>を<あじさい>と空耳的な語感を生かした訳詞の妙味。そして、<悪気なんかないのに人を傷つけて>きた過去を背負いながら<大事にしているものほど>奪われていく未来へ飛び立とうとする決意。<でも生きていかなくちゃなぁ>という溜息と<さぁ行きなさい>という励ましとの間で揺れる心。空の青さに映し出される過去とそれを見つめる視線の先にある白紙の未来。
Please don't put your life in the hands/Of a Rock'n Roll band>(どうか君の人生をロックバンドなんかに委ねないでくれ)と歌われる原曲とは裏腹に、この日本語詞には多くの<シャレにもならない出来事>を通りすぎてもなおもロックに身を捧げようとする覚悟がある。でも、それは原曲にあるどうしようもないせつなさと同じくらいにせつない。
Don't Look Back in Anger>を日本語に訳すと「怒りに転嫁してはいけない」。2005年のジョン・レノン・スーパーライブのパンフレットに「世界の子どもたちへのメッセージ」として吉井和哉が寄せていた言葉を思い出す――「人をうらんではいけないよ」。

18(初回限定盤)(DVD付)

18(初回限定盤)(DVD付)