Spitz × VINTAGE ROCK std. presents 新木場サンセット 2012(スピッツ/安藤裕子/OLDE WORLDE/クリープハイプ/フラワーカンパニーズ)

フラワーカンパニーズ(アコースティック)
フロアの左奥に設置されたインストアライブ(よりちっちゃいぐらい)のようなステージにメンバー4人が登場。リラックスした気負わないムードからの1曲目は“発熱の男”(!)。他の曲もそうだったように、アコースティックセットで聞くフラカンは、さらに言葉とメロディが心に沁みる。
まんま“スタンド・バイ・ミー”(ベン・E・キング)なベースラインの“大人の子守唄”の後*1、MCはオリンピックの話題に。圭介さんの大好きな卓球女子の銀メダルの話からまさかの下ネタに着地して、ひんやり凍りつく会場(笑)*2
けれど、その直後の“深夜高速”のイントロ。バンドセットでは圭介さんの絶叫が入る箇所をせつなくなぞるハープの音にぎゅっと胸をしめつけられて、泣きそうになる。笑いと涙。ユーモアとペーソス。そのどちらもあるフラカンが大好きだと思った。
そして“チェスト”“アイムオールライト”と会場はどんどんあったかくなって、いつものフラカンのライブような一体感が生まれそうなところでライブが終ったのが本当に惜しかった。
私はやっぱりフラカンが大好きだと確認した。10月の渋谷公会堂が楽しみ。

フラワーカンパニーズセットリスト(2012/08/08)
発熱の男
大人の子守唄
深夜高速
チェスト
アイム・オールライト

                                                                  • -

スピッツ
スピッツのライブを観るのは約2年半ぶり。一昨年リリースされた13thアルバムの『とげまる』と今年リリースされたカップリング・カバー集の『おるたな』で、改めてスピッツの素晴らしさを感じて以来、ずっとライブを観たいと思っていた。
その期待通りに、ライブで聞いた曲はどれもやっぱり素晴らしかった。何がどんなふうに素晴らしいのか説明したい欲望と、どんなに言葉を尽くしてもきっとうまく説明できないだろうという予測との板挟みの感情が、ライブ後の余韻として続く。
スピッツを語ることに対するこの感情はちょうど、今回のライブで唯一のバラードにしてハイライトとなった“夕焼け”の歌詞そのものだと思った。

言葉でハッキリ言えない感じ 具体的に
「好き」では表現しきれない 溢れるほど
例えば夕焼けみたいな サカリの野良猫みたいな
訳わからんて笑ってくれてもいいけど

リスナーがスピッツの音楽を語ることは、スピッツが恋愛を歌うことに似ているのかもしれない。どんなに言葉にしてもしつくせない、どんなに歌っても歌いつくせないという意味で。まさにバンドが<これ以上は歌詞にできない>(恋する凡人)と、恋愛を言葉にすることの限界を歌っているように。
けれど、その一方でこのフレーズが弱音ではなく、控え目ながらも強気な決意のように感じられるところがスピッツスピッツたるゆえんだとも思う。恋愛は歌えば歌うほど逃げていくことを百も承知で、ラブソングにかける熱量とスピードを少しも緩めずに言葉とメロディを追い続けるということ。そんな恋愛の「外延」に向かってラブソングを書くアーティストは草野マサムネしかいないと思う。
“運命の人”に“8823”、そして“魔法のコトバ”と、名曲揃いのセットリストのライブは、立ち止まることなく、これらの名曲のさらに先にある言葉とメロディを捕まえ続けようとしているとさえ思えるような「ロマンチックな蛮勇」にあふれたライブだった。

スピッツの音楽を言葉にすることは「むずかしい」というより「はずかしい」。自分の心の中の奥のいちばん柔らい部分、自分でもきちんとのぞいたことない部分に向き合う作業になってしまうから。その意味でも、はやりスピッツは恋愛に似ていると思う。

スピッツセットリスト(2012/08/08)
海とピンク
三日月ロックその3
スパイダー
初恋に捧ぐ
夕焼け
運命の人
恋する凡人
8823
涙がキラリ
(encore)
けもの道
魔法のコトバ

付記:スピッツのライブは、まるでCDを聞いているような印象がある。ロックバンドのライブの生々しさや熱気とは一線を画しているところがある。けれど、ハードロックからフォークまでを網羅するギターの表情の豊かさはライブならではだと思った。そして、ステージ上の草野マサムネのロックミュージシャンらしからぬ抑制的な佇まいは、私の「極私的・日本のロック七不思議」のひとつになっている。

*1:イントロのベースラインに合わせて自然と手拍子が起こる。会場中が“スタンド・バイ・ミー”を一瞬期待wしていた。

*2:2009年の12月にフラカンの20周年ライブにスピッツが出た際に会場を凍りつかせた迷言「フラカンの名曲“靴下”を)“ロビンソン”と交換してください!」を思い出す。