『BLUE APLES〜born-again〜』

武道館公演のDVD化としては2007年の「YOSHII BDOKAN 2007』以来4年ぶり。ライブDVDのリリースとしては,昨年前半の「FLOWERS&POWERLIGHT TOUR 2011」を収めた『LIVE APPLES』から約5ヶ月という短いインターバル。意外なようで納得がいく。このライブは「これをDVD化しなくて、どのライブを…」と思えるほど素晴らしいライブ*1だったから。

「YOSHII BUDKAN」のライブ後に生中継の録画を見ると、演奏に迫力がなく音が平坦になっていて、いつも「あれ?」と思う。このDVDは会場で聞き、感じた演奏の迫力と熱気がそのまま蘇ってくる。このDVDは何よりもまずこの音を聞かせるためにあるとさえ思える。特にベースとドラム。このライブの肝はベースにあると思えるほどかっこいい*2。そこに生方真一のリズムとメロディを同時にガシガシ刻んでいくギターが加わった演奏は、力強さと艶めかしさが見事に両立している。

私にとって、吉井和哉のライブは中盤(最初のMCが終わってから後半に入るまで。4曲目から9曲目ぐらいまで。)の印象がそのライブ全体の印象を決めることが多い。ライブ序盤のアッパーな曲でも終盤のシングルや代表曲でもない曲が続く中盤の選曲に胸打たれることが多いせいかもしれない。中盤のセットリストにこそ「今の吉井和哉らしさ」を感じるからかもしれない。その意味で、“Next Innovaton”“煩悩コントロール”“FINE FINE FINE”“母いすゞ”“ダビデ”“HATE”というセットリストは本当に良かった。

そして、「イエローモンキー時代の吉井和哉よりも吉井和哉らしい」というかもはや「ジャガーよりもジャガーらしい」とさえ思える“RED LIGHT”。吉井和哉のライブヒストリーのなかで、この先ずっと「ザ・ベスト・オブ」と冠されると思う素晴らしさ。「縁起でもない」と叱られるかもしれないけれど、吉井和哉が亡くなったときに追悼として観るならば、この映像は外せないと思う。

DVDを通して、吉井和哉の背中ごしに満員の武道館の客席が映るショットが何度かあった。綺麗な照明*3やスクリーンの映像とともにステージ全体を映したショットよりも、吉井和哉の表情豊かな左手のアップよりも、このショットが一番好きだ。吉井和哉には武道館がよく似合う。いつまでも、武道館の似合うアーティストでいてほしいと思う。

アーティストとファンの関係というのはちょっと特殊な関係で、共依存的な傾向を持つところがある。お互いに「相手に必要とされることを必要とする」ようなところがある。相手に尽くすこと、相手の期待に応えることに自分の価値を見出してしまうというように。そのうちに「愛情は報われなければならない」という信念にとらわれてしまう。そうなると、アーティストとファンの関係はどこか「パワーゲーム」(どちらが勝つか負けるか)の様相を呈してくる。そこにあるのは愛情というより執着なのかもしれない――何かとてもおかしなことを書いていると思われるかもしれないけれど、このDVDを観ながらそんなことを考えた。
私がこのDVDを観て心動かされるのは、私がずっとファンだったからではなく、アーティストとしての吉井和哉にずっと愛情を注いできたからではなく、2012年4月の今この瞬間にやっぱりその音楽が素晴らしいと感じるからだということ。
DVDの最後の曲“FLOWER”を聞いて、ふと、この歌は吉井和哉が初めて歌った「執着のない愛の歌」かもしれないと思った。与えることだけを歌っている歌だった。

(完全受注生産限定)BLUE APPLES~born-again~ [DVD]

(完全受注生産限定)BLUE APPLES~born-again~ [DVD]

*1:http://d.hatena.ne.jp/ay8b/20111229

*2:特に“Next Innovatuon”と“バスツアー”のベースが曲を牽引する感じ。それを意識してDVDのmixをしたんじゃないかと思うほどに。

*3:今回では“嘆くなり我が夜のFantasy”の七色の照明が出色。かつての“RAINBOW”の照明を思い出した。