YOSHII BUDOKAN 2010(2010/12/28 日本武道館)

ユニオンジャックを背中に貼り付けた真っ赤なコートで登場したその瞬間から、吉井和哉は自信満々だった。新曲“アシッドウーマン”のへヴィさでさらっとライブの幕を開けてしまうその姿は憎たらしいほど堂々としていた。東スタンドから見下ろしたその背中はギタリストの風情と貫禄。マイクスタンドの下に要塞のジオラマみたいにいくつも並んだエフェクターが印象的(い、いつの間に…)
そして、声。ライブ全体を通して何度か裏返ることもあったけれど、それが気にならないくらい本当によく出ていた。ロックスターの艶やかさとブルースマンの迫力の両方を兼ね備えつつ、それでいてどこまでもせつない声。

アッパーなシングルでもなくロマンチックなラブソングでもない、どこか奇妙でダウナーな「吉井和哉らしい」曲が続くライブ前半の流れが好きだ。こんな変わった曲をこんな大勢の前で歌えるロックスターは吉井和哉しかいないと確認できるからかもしれない。
このパートで演奏された“人それぞれのマイウェイ”“BLOWN UP CHILDREN”“20 GO”“Do The Flipping”とソロ以降の各時期から選ばれたそれらの曲は、歌詞も曲調もばらばらでありながら続けて演奏されても全く違和感がなかった。ふと、ソロになってからこれまでのツアーのオープニングの風景を思い浮かべた。
バンド時代から吉井和哉は、アルバムごとのモードやコンセプトの変化に自覚的なアーティストだった。だから、吉井和哉がの新しい歌にはいつも彼の新境地や変化が見え隠れしていて、期待とともに不安を感じることもあった。けれど、ソロ以降のアルバムを串刺にしたセットリストを何の違和感もなく歌うその姿に、先取りした未来に必ず追いつき「現在」にしてしまうアーティストとしての凄みを感じた。

オリジナルの日本語詞による恒例のカヴァーは、ビートルズの“Across the universe”。
透明な朝の食卓で晴れない心を抱えた少年の歌。父さんも母さんも出て行った後で<それから僕だけの美しい世界が広がり始めた>というフレーズは、この曲からなだれ込むように始まった“Four Seasons”(!)の<まず僕は壊す 退屈な人間はごめんだ>という決意の前の深呼吸のようだった。
そして、その深呼吸に続いたこのフレーズ――

宇宙はひとつって誰が決めたの?
本当はもっとたくさんかもね Across the universe
目に見えないことは信用できないの?
ポストに入らない手紙の方が多いのに

ポストに入らない手紙>を想うことは同時に「ポストに入った手紙」の存在を浮かび上がらせる。私のポストには吉井和哉の音楽という手紙が入った。私は幸せだと思った。
そしてライブの終盤、手紙を受け取っているのは他でもないステージの上の吉井和哉自身だと思った。

新曲の“リバティーン”や“オジギソウ”(2階正面の南スタンドに刺さるレーザー照明の美しさ)の道を踏み外していくような危うさと気迫も素晴らしかったけれど、やっぱりどうあがいても、この日のライブの白眉はアンコールで歌われた“シルクスカーフに帽子のマダム”だった。
ザ・イエローモンキーという過去はとても大きくて、吉井和哉の現在とどうつながるのか(つながらいのか)ライブの度に考えさせられてきた。けれど、今から約20年前に吉井和哉が作ったその曲は、過去ではなく紛れもなく現在の吉井和哉血と骨と肉になっていた。20代の吉井和哉が44歳の吉井和哉に送った手紙を読むように。吉井和哉はモンキー時代のどの曲も現在の歌として歌えるようになったのだと思った。
曲というのは聞き手に送られた手紙であると同時に、アーティストが未来の自分に送った手紙でもあるのかもしれない。けれど、誰もがその手紙を受け取れるわけじゃないのかもしれない。

ライブの最後は新曲“LOVE&PEACE”。ライブの最後をリリース前の新曲で終えるのはソロになって初めて。軽やかだけれど、その自信に見合うだけの曲だった。春夏秋冬が歌われていた。

ポストに入らない手紙の方が多い>ことの痛みとを引き受けながら、未来の自分に出会い続ける吉井和哉の才能の大きさと強さを観たライブだった。

吉井和哉 セットリスト(2010/10/28)
アシッドウーマン
PHOENIX
WEEKENDER
ヘブンリー
ウォーキングマン
人それぞれのマイウェイ
BLOWN UP CHILDREN
20GO
Do The Flipping
リバティーン
Across the universeThe Beatles
Four Seasons (The Yellow Monkey
オジギソウ
TALI
BELIEVE
ノーパン
ビルマニア


(encore)
シルクスカーフに帽子のマダム (The Yellow Monkey
アバンギャルドで行こうよ (The Yellow Monkey
FINAL COUNTDOWN
LOVE&PEACE