「窓辺で手紙を調弦っす。vermail」(2010/09/19 SHIBUYA-AX)

メンバーの登場に大きな歓声が上がる会場。どことなく「風格」さえ漂わせつつ真っ赤なパソコンを片手に堂々との子登場。と同時にステージ上から下りてくる大型スクリーンに映し出されたのはニコニコ生放送ライブ配信画面。
会場の歓声に呼応するように、あるいはそれを超えるようにスクリーンは、配信の視聴者のコメントで覆われていく。滑らかなLED画面の上を極彩色の虫の大群が這うようにコメントが流れていく様は、本当にくだらなくて本当に美しく本当にかっこよかった。

えっーっと、ロックの歴史とかいろいろいろいろあると思うんですけど、こういうのは今までになかったんじゃないかって、で、今日はロックの歴史になんか刻めたらいいなっ、て思います」。最初はスクリーンを眺めながら感慨深そうに、最後は観客を見て決然と発したの子のMCの直後、始まったのは“夕方のピアノ”。
繊細なピアノをあっという間にかき消す歓声。そして鳴り止まないもう一つの声が目の前を横切っていく。
[死ねー][死ねー死ねー][のこぉぉぉぉぉぉぉ][佐藤さんサワセンサワセン][死ねーーーー][生きる][会場の佐藤涙目ww][ありがとう][しねええええええ][えええええええええええ][死ねええええええええええええええええ]
新しい景色。

続く“レイニー・デイリー・ベイビー”は演奏がひどいのにやっぱりどうにも悲しくて美しく、最後の<あえて言わないだけです>に被さってスクリーンに流れた[AETE]の文字が目に焼きついた。
そんなライブと同期して、スクリーンの画面に映るもうひとつのライブ。ほんの一瞬止まったり、ほんの一瞬青一色になるだけであっという間に[tmt]「運営者しっかりしろ][運営者は佐藤]と、曲が終わる度に[888888888888][888888888888888888]と拍手で埋めつくされるスクリーン。それが目の前の演奏に対する気持ちを分断するわけでもなく、それも含めて「ライブ」が今この瞬間に生み出されていく感覚。
[会場もっと熱く][会場もっと盛り上がろう!!!]と、配信の視聴者(あっち側)にライブの観客(こっち側)が煽られる不思議。でも、確かにライブの序盤はこっち側よりあっち側の方に熱があった。

そして、の子の「ディス・イズ・ヒストリィィィー!!!」(元ネタ@oasis)の絶叫に続いてあのピアノが鳴った瞬間。あっち側の熱にこっち側が一気に追いつき、ともに臨界点を超えた瞬間――“ロックンロールは鳴りやまないっ”。
スクリーンが映し出すまさに「歴史的瞬間」を、激流のようなコメントの波がかき消していく様は圧巻だった。
ステージの上のの子は、いるべき時、いるべき場所で、やるべきことをしている人間の顔だった。その横顔を「ロックスター」と呼ぶ人がいてもおかしくないと思った。
曲の最後、「・・・鳴りまないんです」とささやくように歌って曲に幕を下ろしたの子に向けて湧き上がる大きな拍手と歓声。それを受けて会釈したときのの子の表情がとても印象的だった。それは意外なほど健やかな青年らしい恐縮と感激を浮かべた笑顔だった。


・・・・・・で、ここで、前半の4曲で終わっていれば本当に心を真っ二つに割るようなエポック・メイキングなライブだったのに・・・と、どこか怒りにも似た気持ちを感じてしまうほど、後半はグダグダの展開(私には)
ニコニコ生放送で配信やってんだからアンケートでしょ!!!と言い出したメンバーは誰だったか。アンケートからライブがおかしな方向に。
その後、monoくんのテンションダダ下がりで演奏された“学校に行きたくない”。計算ドリルのカオスのなか、スクリーン下方を横切ったバイオハザード2始まった]というコメントwが、冷えていく心をかろうじてあったかくしてくれたのは気のせいじゃない。

ライブの終わり。細い枝にぶら下がった内臓がスクリーンに大写しになって、画面は真っ青に。流れる[BAN][BANwwww]の文字。配信終了。

青ざめたスクリーンと会場の「アンコール」の声に迎え入れられて、メンバーが再びステージに。会場から上がった「配信ざまあ」の声は、勝ち誇ったようでいてどこか負け惜しみのようにも聞こえた。それはこの日体験した「新しさ」をまだうまく名づけられないもやもやした感覚にも似ていた。


最新型は知っている。自分が新しいということを。でもどこが新しいのかはわかっていない。わかりそうになるその瞬間、最新型は「ロックンロール」と「ロックンロールでないもの」を分ける高く細い糸の上を全力で駆け抜けていく。

神聖かまってちゃんセットリスト(2010/09/19)

夕方のピアノ
レイニー・デイリー・ベイビー
天使じゃ地上じゃちっそく死
ロックンロールは鳴り止まないっ
学校に行きたくない
ちりとり
いかれたNEET

(encore)
あるてぃめっとレイザー